
ここで先に結論を申し上げれば、45秒という数字そのものに特別な魔法があるわけではありません。重要なのは、45秒のworkと15秒のrecoveryという時間構造を組み合わせることによって、マリウス・バッケン(Marius Bakken)が追求した「高い刺激」と「持続可能性」のバランスをいかにして構築するかという点にあります。
- はじめに:45/15という、一見奇妙な時間構造
- 1. 45/15はどこから生まれたのか:Billatの研究とバッケンの試行錯誤
- 2. 30/30では短すぎ、60/20では長すぎた:バッケンの経験的最適化
- 3. 45秒というwork intervalには何が起きているのか:エネルギー供給とキネティクス
- 4. 15秒のrecoveryは何をもたらすのか:「部分回復」という構造
- 5. 心拍数と主観的負荷の動態:Internal LoadとExternal Loadの視点
- 6. 乳酸のオシレーションと動的制御という視点
- 7. 45/15は何を狙うか:複数の適応を一つの構造で束ねる
- 8. Threshold intervalとの違い:時間構造と強度設定の分離
- 9. Double Thresholdとの接続:Load DistributionからStimulus Structureへ
- 10. Combination Variant・Pyramid Variant・Block Sets:バリエーションの展開
- 11. Combination Run ── 疲れた脚に45/15を重ねる
- 12. 距離別・時期別の使い分けとPeriodization
- 13. Return After Illnessについて:経験則の限界
- 14. 45/15は本当に「万能」なのか:経験則と科学的エビデンスの境界
- まとめ
はじめに:45/15という、一見奇妙な時間構造
「45秒走って15秒休む」。
そう聞くと、多くのランナーは「速く走るための新しい特殊なインターバルメニューなのだろう」と想像されるかもしれません。しかし、バッケンが著書『The Norwegian Method Applied』の第8章で提示している「45/15」の本質は、単なるきつい練習メニューの紹介ではありません。
今回の問いは非常にシンプルです。
なぜバッケンは、30秒でも60秒でもなく「45秒」を選んだのでしょうか?
本記事では、45/15という一見変則的なインターバルを「強度を上げるための特殊なメニュー」として片付けるのではなく、「高い刺激を成立させながら、それを身体が吸収できる形にするための“時間構造”(Stimulus Structure)」として徹底的に解剖していきます。そこにあるのは、単なる根性論や感覚的な思いつきではなく、運動生理学的知見の解釈と、膨大な実践的試行錯誤の融合です。
前回の第7章で論じた「Double Threshold」が、1日の中で負荷をどう分配するかという「Load Distribution(負荷の分散)」の話しであったのに対し、今回の第8章は、1つのセッションの中で負荷をどのような時間的枠組みで切り取るかという「Stimulus Structure(刺激の時間構造化)」の領域へと、さらに一段深く降りていくプロセスとなります。
1. 45/15はどこから生まれたのか:Billatの研究とバッケンの試行錯誤
マイクロインターバルの系譜を辿る上で外せないのが、フランスの運動生理学者であり元エリートランナーでもあるヴェロニク・ビヤ(Véronique Billat)の研究です。ビヤらは、走者が最大酸素摂取量(VO2max)領域に滞在する時間をいかに最大化するかという問いに挑み、伝統的な長めのインターバルを改良して「30/30(30秒の疾走と30秒の回復)」というプロトコルを発展させました。実際の一次研究においても、持続走に比べてVO2max付近の滞在時間が顕著に長くなることなどが示されています。
バッケン自身、若き日から「どうすれば最小の時間で最大の効果を得られるのか」「身体の制御システムをどう出し抜くのか」という問いに向き合う中で、こうしたビヤの研究に関心を持ちました。
ただし、ここで非常に重要な注意点があります。それは、ビヤの研究結果をバッケンの45/15に対する直接的な科学的証明として短絡的に結びつけないことです。ビヤの研究はあくまで歴史的な土台であり、インスピレーションの源泉に過ぎません。バッケンがそこからいかに自身のトレーニング体系へと試行錯誤を通じて昇華させたのかは、次のステップに明確に表れています。
2. 30/30では短すぎ、60/20では長すぎた:バッケンの経験的最適化
バッケンは、自身のトレーニング実践の中でさまざまなデュレーション(継続時間)を試行錯誤した末に「45/15」へとたどり着きました。なぜ30/30や60/20では不十分だったのでしょうか。原著におけるバッケンの記述によれば、それぞれの構造には以下のような明確な限界があったとされています。
- 30/30の場合: ワーク時間が短すぎると感じられ、身体がしっかりとワークゾーンへ入り込む余裕がないまま次の移行を迎えてしまいます。トランジションの回数が過剰になり、血中乳酸値をもとにした均一な強度を維持することが困難であったと述べられています。
- 60/20の場合: 逆にワーク時間が長すぎるため、乳酸の蓄積が過剰になり、セッション全体を通してスピードを維持することが難しくなります。筋負荷が過大になり、累積する疲労によってトータルの作業時間が低下してしまうという欠点がありました。
| 構造 | バッケンによる評価・課題 |
| 30/30 | 短すぎる:ワークゾーンに入りきる前に切り替わる。トランジションが過剰になる。 |
| 60/20 | 長すぎる:乳酸の蓄積や筋負荷が増え、スピード維持が困難になる。 |
| 45/15 | スイートスポット:高い刺激と持続可能性のバランスを両立する。 |
この二つの極端の間で、「十分に高い有酸素的刺激を作りながら、乳酸の制御不能な蓄積を防ぎ、次の反復へスムーズに移れる」という絶妙なバランスを満たしたスイートスポットこそが「45秒のワークと15秒の休息(45/15)」であったと、バッケンは説明しています。
もっとも、これはあくまでバッケン自身の実践的な最適化のプロセスであり、「30/30や60/20より45/15が生理学的に普遍的な絶対最適値である」と科学的に証明されたわけではない点には、常に留意する必要があります。
3. 45秒というwork intervalには何が起きているのか:エネルギー供給とキネティクス
では、45秒という短いワーク区間において、生体内では具体的に何が起きているのでしょうか。
高強度運動では、運動開始直後からホスホゲン系(ATP-PCr系)、解糖系、そして酸化系(有酸素系)が並行してエネルギー供給に関与します。したがって、45秒という時間を単に「有酸素系が働き始めるまでのタイマー」と単純化することはできません。むしろ運動生理学的に重要なのは、45秒という反復時間によって、次のような利点が生まれる点にあります。
- 高い速度の維持: 単一の長いレペティションでは後半にフォームが乱れやすい速度域であっても、45秒という単位で細かく区切ることで、神経筋駆動の高い状態を保ったまま質の高い走りを反復できます。
- 酸素摂取の応答性: 運動開始に伴う酸素摂取量の立ち上がり(VO2 kinetics)を利用し、VO2max近傍の負荷を高効率で心血管系に課すことが可能です。ただし、45秒という短時間で必ずしもVO2maxそのものに到達するわけではありません。
つまり、45秒という長さは、有酸素的代謝の稼働を高めつつ、筋肉内の過度な代謝産物の蓄積を引き起こす前に区切られる、実践的に極めて扱いやすいワーク時間として機能しているのです。
4. 15秒のrecoveryは何をもたらすのか:「部分回復」という構造
45/15の構造を語る上で、最も見落としてならないのが、15秒という短い休息の性質です。
45/15における15秒は、身体を「元の状態に戻すための完全な休息」ではありません。15秒という短い時間では、心拍数や酸素摂取量(VO2)がベースラインまで低下することはなく、循環動態や呼吸循環系の活動水準は高い状態を維持したままとなります。また、クレアチンリン酸(PCr)の再合成や乳酸のクリアランスが「完全に完了」するわけでもありません。
むしろ、次の45秒を遂行するための最低限の回復を与えながら、前の反復で作った生理的状態をできるだけ残すための時間と考えたほうが正確です。
- 従来のロングインターバル: 「高強度 → 長い休息 → ほぼ回復 → 再び高強度」という、リセットを挟む構造です。
- 45/15の構造: 「高強度 → 部分的回復 → 高強度 → 部分的回復」という、連続性を重視した構造です。
つまり、完全回復してから再スタートするのではなく、「部分回復から再刺激へ雪崩れ込む」という構造になっています。休むことで完全リセットするのではなく、あえて負荷を残したまま次の反復へ繋ぐ点が、このプロトコルの最大の核心です。
5. 心拍数と主観的負荷の動態:Internal LoadとExternal Loadの視点
バッケンは、45/15セッション中の特徴について以下のように報告しています。
- バッケンの主張: ポーズ中も含めてセッション全体を通して平均心拍数が、他のどのハードワークアウトよりも非常に高くなる一方で、セッション終了後の局所的な疲労感は意外なほど軽く感じられるという点です。
トレーニングにおける負荷は、主観的なきつさや内部的な生体反応を示す(Internal Load)と、実際にどれだけのスピードや距離をこなしたかという物理的な仕事量(External Load)に分解して考えることができます。45/15の構造を採用すると、一つひとつの45秒間は連続して走り続けるよりも局所的筋負荷が小さく感じられます。しかし、15秒しか休まないため、セッション全体を通した心拍数は非常に高い水準で張り付くことになるとバッケンは述べています。
ここでさらに踏み込んで理解すべきなのが、「中央の負荷(心肺系)」と「末梢の負荷(筋・神経系)」のズレです。45/15では、心肺系に対しては極めて高いInternal Loadを継続的に与え続ける一方で、1本あたりのワークが45秒と短いため、局所的な筋や関節、神経系にかかるダメージ(末梢の負荷)は比較的小さく抑制されます。つまり、「心肺には非常にきつい(高い内部負荷)」けれども、「足や筋肉の局部的な破壊や疲労は最小限に抑えられる」という一見矛盾した状態が成立します。15秒の短いポーズは完全回復をもたらさないため心拍数は落ちませんが、次の反復を可能にする程度には局所的負荷を逃がす役割を果たしており、その結果としてセッション全体で莫大な高品質の仕事量をこなすことが可能になります。これが、45/15が「きついのに、壊れにくい」と言える最大の理由です。
ただし、ここで「心拍数が高いからVO2maxへの適応が最大化される」と短絡的に考えるべきではありません。心拍数は内部負荷を示す一つの指標にすぎず、短いインターバルが長いインターバルより常に優れたVO2max応答を引き起こすとは限らない点には留意が必要です。心拍はVO2よりも遅れて反応するため、インターバルを重ねるほど心拍は高い領域へとドリフトしやすいという特性もあります。
6. 乳酸のオシレーションと動的制御という視点
バッケンは、乳酸の動態について次のように述べています。
“Lactate rises during the 45 seconds of work and falls partially during the 15-second pause.”
45秒のwork intervalでは乳酸が上昇し、15秒のrecoveryではその一部が低下する
これをそのまま「45秒で上がり、15秒で下がる」と機械的に描くのは危険です。乳酸は単純な「ON/OFFスイッチ」のように瞬時に上下動するものではありません。生成(lactate production)、血中への移行、酸化による利用、そして他組織への取り込み(lactate clearance)などが連続して起こる動的な代謝産物です。乳酸=疲労物質という古い理解では、この動態を正しく説明できません。
ここで重要なのは、乳酸をゼロに戻すために休むのではないという点です。15秒のリカバリーは乳酸を完全にクリアにするためのものではなく、次のworkを可能にする程度まで代謝的な負荷を調整し、完全にリセットすることなく再び刺激を加えるためのものです。つまり、バッケンの言う「乳酸が上下する(oscillation)」という表現は、厳密な血中濃度の瞬時な挙動というよりも、「乳酸産生と利用のバランスを崩壊させず、コントロール不能な急増を抑えながら高い仕事を継続できる状態」を維持するシステムとして捉えるのが妥当です。
7. 45/15は何を狙うか:複数の適応を一つの構造で束ねる
バッケンは、45/15というプロトコルが多様な適応を引き起こすと評価しています。
- VO2max の向上
- 乳酸閾値の強化
- 筋パワーおよびランニングエコノミーの維持・向上
45/15の最大の面白さは、一つの生理学的システムだけを孤立して狙うのではなく、複数の適応を同時に引き出す点にあります。
- 心肺系: 高い酸素需要の維持
- 代謝系: 乳酸産生と利用の反復(オシレーション)による代謝耐性の向上
- 神経筋系: 高い速度の反復による効率的な運動パターンの強化
- 力学系: 疲労によるフォーム崩壊を抑えながら高速走を反復
ただし、これらが「45/15という特異なプロトコルだからこそ生じる独自の生理学的マジックである」と科学的に証明されているわけではない点には注意が必要です。つまり、45/15の価値は「45秒だから特別」なのではなく、短いworkと短いrecoveryによって、高い速度・高い酸素需要・比較的抑えられた局所疲労を同時に扱いやすくするところにあります。その意味で、45/15はその極めて洗練された一形態に過ぎません。
8. Threshold intervalとの違い:時間構造と強度設定の分離
ここで、前章までに扱ってきた閾値トレーニングとの違いを改めて整理しておきましょう。
- Traditional Threshold Interval: 比較的長いワーク(例: 6分〜10分など)を用い、乳酸の産生と利用のバランスを大きく崩さない範囲で、比較的高い強度を持続します。
- 45/15(Micro-Interval): 極めて短いワーク(45秒)と短いポーズ(15秒)の反復です。
ここで極めて重要なのは、「45/15は従来のThreshold trainingの完全な代替手段ではない」という点です。バッケン自身は45/15を、threshold session、above-threshold session、そしてXセッションの双方に使えるとしています。
つまり、「45/15という時間構造(Stimulus Structure)」と、「そのときに何km/h、何%HRmax、何ペースで走るかという強度設定」は完全に別の変数です。45/15だからといって自動的に強度が決まるわけではなく、目的に応じて閾値レベルでも、それ以上の強度でもこのフレームワークを適用できます。これらは競合するものではなく、異なる負荷のかかり方を作る補完関係にあるのです。
では、実際に45秒をどのくらいのペースで走るのでしょうか。ここにも、45/15の重要な特徴があります。45/15そのものに「○○km/hで走る」という固定されたペース設定があるわけではありません。Thresholdを狙うなら閾値付近、より高速な刺激を狙うなら5Kや3Kペース方向へと強度を変えることができます。つまり、45秒という時間は「強度を決める数字」ではなく、「設定した強度をどのように反復させるか」を決める数字なのです。
9. Double Thresholdとの接続:Load DistributionからStimulus Structureへ
ここまでの第1〜8章の展開を振り返ると、私はこの流れを次のように整理してみたいと考えています。
- Threshold: 「どの強度領域で刺激するのか」
- Double Threshold: 「その刺激を1日の中でどのように配置するのか(Load Distribution)」
- 45/15: 「1つのセッションの中で刺激と回復をどのような時間構造にするのか(Stimulus Structure)」
第7章の主題が1日の中での負荷の分散(Load Distribution)にあったとすれば、第8章の45/15は、1つのセッションの中での時間配分(Stimulus Structure)という、さらに一段細かい時間スケールの問題に踏み込んでいます。
このように、「1日のスケールでの負荷分配」と「1セッション内の時間構造化」を組み合わせることで、単調になりがちなトレーニング群に多様な刺激を与えつつ、破綻を防ぐ洗練されたシステムが構築されていることが見えてきます。
10. Combination Variant・Pyramid Variant・Block Sets:バリエーションの展開
バッケンは単一の45/15を繰り返すだけでなく、実践においていくつかの高度なバリエーションを提示しています。これらは単なる変化球ではなく、セッション内での生理学的・神経的な適応を精密にコントロールするための設計図です。
① Combination Variant
- 構造: 15〜20本程度からスタートする45/15において、各インターバルごとに0.1 km/h程度ずつ速度を上げ、最後の2〜3本を「ぎりぎりこなせる」程度まで漸進(progressive)させます。その後、2分の完全休息を挟み、最後のインターバルと同じ速度で5本追加するというものです。
- 狙い: 前半で徐々に負荷を高めて神経系を目覚めさせつつ、疲労が蓄積した後半に高い速度を維持する仕上げ(intensive finishing focus)を行います。閾値領域の刺激と、それをわずかに上回る領域の刺激を一つのセッション内でシームレスに組み合わせる高度なアプローチです。
② Pyramid Variant
- 構造: 例えば「3×30秒 ── 3×45秒 ── 3×60秒 ── 3×45秒 ── 3×30秒」といったように、ワークの長さをピラミッド状に変化させます。
- 狙い: 単一のデュレーションに身体を慣れさせるのではなく、ワークの長さを変えることで異なる代謝的・神経的刺激をミックスし、単調さを防ぎながら多様な適応を引き出すことを目的としています。
③ Block Sets
- 構造:
- Set 1: 45/15 at 10K pace (3分レスト)
- Set 2: 45/15 at 5K pace (3分レスト)
- Set 3: 45/15 at 3K pace
- 狙い: レース特異性(race-specificity)を一つのセッション内で段階的に高めます。冬から春への移行期における専門的準備期(specific preparation)において、速度のギアを段階的に上げていく実践的なブロック構築となります。
11. Combination Run ── 疲れた脚に45/15を重ねる
バッケンのアプローチの最も特異な側面の一つが、長距離走の直後に45/15を接続する「コンビネーションラン」の提案です。
- プロトコル概要:
- 1〜2時間の完全なイージージョグを行います。
- 休息を一切挟まず、そのまま最初の45秒インターバルへ移行します。
- 15秒の軽いジョグによるポーズを挟みます。
- これを10〜15回反復し、可能ならprogressiveに速度を上げます。
- 解釈と位置づけ: マラソン後半においては、単なる代謝的余裕の有無だけでなく、筋・神経系の局所的疲労(muscular factors)がパフォーマンスを制限する大きな要因となります。長いイージージョグによってあらかじめ筋疲労やエネルギー的な余裕を低下させた状態を作り出し、その疲労困憊した脚のまま閾値付近の45秒インターバルを遂行することで、「疲労下で質の高い走りを維持する能力(marathon durability)」を狙うものです。
- ただし、これが科学的に検証された普遍的なマラソン強化の必須メソッドであると断定することはできません。あくまでバッケンの膨大な経験知に基づく実践的アイデアとして位置づけられるべきものです。
12. 距離別・時期別の使い分けとPeriodization
バッケンは、45/15の数字や強度を画一的に扱うのではなく、ターゲットとするレース距離や年間ピリオダイゼーションに応じて柔軟に変更すべきだと説いています。
- 中距離(800m〜1500m): 高強度(HRmax 90〜95%程度)、短い総ボリューム(12〜15本)、2〜3分のセットブレイクを挟み、60/20や75/25といった長めのバリエーションを用います。
- 5K〜10K: 標準的な45/15(20〜30本)、閾値から3K〜5Kペースへの漸進(progression)を採用します。
- ハーフ・フルマラソン: 60/20などの長めの変種、相対的強度の下方調整、およびコンビネーションランの活用を行います。
さらに、年間のピリオダイゼーション(Periodization)における位置づけは以下の通りです。
- 基礎構築期(Base Training): 週1〜2回、15〜20レペティション、モデレートな漸進を行います。
- 専門的準備期(Specific Preparation): 週1回、20〜30レペティション、レースペース方向へのプログレッション(Block setsやPyramidの導入)を行います。
- 試合期(Competition Period): 10日に1回から16日に1回程度、12〜15レペティションとし、完全燃焼(exhaustion)まで追い込まないように調整します。
13. Return After Illnessについて:経験則の限界
バッケンは著書の中で、45/15を病気やトレーニング中断後のフィットネス・筋状態の回復(Return after illness)においても、2〜3週間にわたり週2〜3回行うことで非常に安全かつ効果的に復帰できる手法として強く推奨しています。
ここで改めて厳重に強調しておかなければならないのは、「Bakkenの経験的推奨」と「科学的エビデンス」の境界線です。
バッケンが自身のキャリアで「こうしてうまくいった」と主張することと、医学的・科学的に「病後のランナーにとって45/15が最も安全で確実な復帰法である」と証明されていることは全く別次元の話です。45/15という構造そのものが病後復帰に特有の医学的優位性を持つという客観的証拠があるわけではありません。過度なトレーニング中断からの復帰には、個人の身体状態に応じた慎重な漸進が不可欠です。
14. 45/15は本当に「万能」なのか:経験則と科学的エビデンスの境界
バッケンは著書の中で、45/15を“universal”かつ極めて効果的な手法として高く評価しています。しかし、著者の表現をそのまま無条件の科学的事実として飲み込んではいけません。
本記事を通じて詳細に検証してきたように、トレーニング論を読み解く上では次の3つのレイヤーを厳格に区別する必要があります。
- Bakkenの経験:「こう使うとうまくいった、これが最適解だと感じた」という主観的知見
- 運動生理学的に合理的な説明:「こういうエネルギー供給や心血管の動態であれば、理論的な説明がつく」という解釈
- 科学的に証明されていること:「統制された研究によって、他のプロトコルに対する優位性が普遍的に確認されている」という客観的事実
45/15という時間構造は、バッケンの試行錯誤が生んだ極めて洗練されたフレームワークではありますが、それが科学的に証明された絶対的な万能薬であるわけではないという点を忘れてはなりません。
まとめ
ここまでの章を振り返ると、ノルウェー式(Norwegian Method)は単に「閾値でたくさん走る方法」ではないことが明確に見えてきます。トレーニングの設計図は、次のような階層構造を描いています。
- Intensity(強度): どの強度領域で生理学的刺激を生み出すのか(Threshold)
- Load Distribution(負荷の配置): その刺激を1日や1週間の中でどのように分散させるのか(Double Threshold)
- Stimulus Structure(時間構造): 1つのセッションの中で、仕事と休息をどのような時間的枠組みで切り取るのか(45/15)
第8章の45/15は、この階層の中でさらにミクロな時間スケールに踏み込み、45秒のworkと15秒のrecoveryを組み合わせることによって、「心肺系への高い内部負荷(Internal Load)」と「1本あたりの局所的な筋負荷を抑えながら高い速度を反復できる構造」という一見相反する条件を同時に成立させました。乳酸を完全にクリアするのではなくオシレーションさせながら、高い酸素需要と速度を維持し続けるシステムは、単なる根性論のインターバルとは一線を画しています。
Combination Variant、Pyramid Variant、Block Sets、そしてCombination Runに至る多様なバリエーションもすべて、この時間構造をベースにしながら適応の方向性を精密にコントロールするための実践知です。もちろん、これらがすべてのランナーにとって普遍的な科学的真理であるとは限らず、バッケン自身の膨大な経験的試行錯誤に裏打ちされた特異なメソッドであるという留保を忘れてはなりません。
それでもなお、45/15という手法が教えてくれる本質は非常に大きいです。
45秒という数字そのものに魔法があるわけではありません。重要なのは、身体がその負荷を確実に吸収できるように、刺激と回復の時間構造そのものを緻密にデザインする技術です。
刺激を最大化するのではなく、適応を最大化する。
だからこそ、45/15というプロトコルから私たちが学ぶべきなのは、45秒という数字そのものではなく、トレーニングにおける負荷と時間構造をどう設計するかという、思考と実践そのもののあり方なのです。
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