限界まで連続してやる必要はない──筋トレの反復を“小分け”にするクラスターセット

「10回やるなら、10回続けてやる」

筋トレをしていると、1セットを始めたら、決めた回数まで続ける。最後の数回が苦しくなってきても、そこで止めずに続ける。そして、限界に近づいたところでようやくセットを終える。それが「セット」というものだと思っているからです。

でも、少し変な話でもあります。なぜ、反復を一つの塊として続けなければならないのでしょうか。

同じ重量で、一定の反復数を行う。その仕事を一気にまとめてもいい。途中で短い休憩を挟んで、小さく分けてもいい。合計の回数は同じです。使う重量も同じです。それなのに、身体が受ける疲労の出方は変わります。

ここに、クラスターセットという考え方があります。それは、「もっと重い重量を扱うためだけの方法」でもなければ、「もっと回数を増やすための方法」でもありません。同じ仕事を、どう分けて行うか。そこに目を向ける方法です。

1. 「最後まで続ける」という常識

私たちが「連続して限界まで行うこと」にこだわるのには、それなりの理由があります。セットの終盤で現れる強い疲労感や、1回ごとの動作速度が落ちていく局面を乗り越えることこそが、トレーニングのメインイベントだと考えられてきたからです。

10回できる重量なら、10回目を挙げきって初めて意味がある。途中で一度ラックに戻し、一息ついてからまた再開するなんて方法は、どこか追い込みが足りない人間の妥協のように映る。

筋力や筋量を維持したい。競技のためにトレーニングの質を高めたい。そう思えば、自然と重量を増やし、回数を増やし、セット数を増やし、できるだけ限界に近づけようとする。トレーニングを続けていると、いつの間にか「刺激を増やすこと」が当たり前になっていく。もちろん、それ自体が間違いというわけではありません。ただ、負荷や刺激を増やす方法は、本当にそれだけなのでしょうか。

同じ重量を持ち上げ、同じ総反復数をこなすとしても、それを途切れることなく一つの長いセットとしてやり切るのと、途中に短い休憩を挟んで小さな反復ブロックに細かく分けるのとでは、何が違うのでしょうか。

2. 疲労する前に、いったん止める

ここで、発想を少しだけ変えてみます。

セットの後半では、疲労によって動作速度が落ちていきます。さらに追い込めば、フォームを維持することが難しくなる場面もあります。だからといって、ストレートセットが常に間違いというわけではありません。疲労によって反復の質が落ちていくことを、あえて利用するトレーニングだってあります。ただ、毎回それを選ぶ必要もない。

ある重量で一定の反復数を行うとします。それを一つの長いセットとしてまとめるのではなく、数回ずつの小さなブロックに分け、その間に短い休憩を入れます。それを繰り返していく。

このやり方を目の当たりにしたとき、多くの人はこう感じます。「それでは負荷が軽すぎるのではないか」「途中で休んだら、しっかり追い込んだことにならないのではないか」と。

だが、ここに違いがあります。「途中で休むこと」と「トレーニングの総負荷が軽くなること」は同義ではありません。

休憩を挟むという行為は、ただトレーニングを中断してサボることではありません。それは、疲労の出方をコントロールするための変数なのです。一つの長いセットを、いくつかの小さなブロックに分ける。では、この「小分けにする」というアプローチをとったとき、身体の中では何が起きているのでしょうか。

3. 同じ反復数でも、疲労の積み上がり方は変わる

例えば、ある重量で合計30回行うとします。それを10回ずつまとめるのか。小さなブロックに分けるのか。総反復数だけを見れば同じ30回です。しかし、30回に至るまでの疲労の積み上がり方は同じではありません。

一つの長いセットとしてこなす場合、後半の反復になるにつれて疲労が蓄積し、1回あたりの動作スピードが落ち、フォームが乱れ、最後はギリギリの状態で挙上することになります。

一方、ブロックを細かく分ける場合、数回行ったらすぐに止まるため、次のブロックに入る時点での疲労の蓄積を抑えることができます。短い休憩で完全に回復するわけではありませんが、直前のセットで崩れかけたフォームを修正し、1回目から動きの安定感を維持しやすくなります。

同じ30回であっても、すべての反復が同じ条件で行われるわけではありません。疲労が進んだ状態で行う反復と、短い休憩を挟んで比較的動きやすい状態で行う反復では、動作速度も発揮できる力も変わります。

4. 短い休憩で、反復の質を保つ

「途中で短く休む」という構造を、もう少し見てみます。

高強度の反復を続けると、筋収縮に必要なエネルギー供給や筋内環境が変化し、疲労が蓄積するにつれて、徐々に力を発揮しにくくなっていきます。連続して限界まで追い込むと、代謝の負担が大きくなり、動作のキレが失われていきます。

ここに、例えば十数秒程度の短い休憩を差し挟むとどうなるでしょうか。

十数秒の休憩では、筋肉が完全に回復するわけではありません。それでも、休憩なしで反復を続ける場合に比べれば、次の反復までに回復する時間を確保できます。その結果、次のブロックでも、動作速度や発揮できる力を比較的保ちやすくなります。

つまり、短い休憩の目的は疲労をゼロにすることではありません。疲労が蓄積した状態で反復を続けるのを避け、次の反復ブロックでも動作の質を保ちやすくすることにあります。

5. クラスターセットは筋肥大の裏技ではない

ここまで読めば、「小分けにして動きの質を保つ方が、筋肉が大きくなるのではないか」と期待したくなるかもしれません。

しかし、トレーニングの世界はそんなに単純ではありません。

クラスターセットとストレートセットを比較した研究もあります。研究結果を見ると、クラスターセットが筋肥大でストレートセットを上回るとは言い切れません。

総セット数や総反復数などの条件を揃えて比較した場合、長期間の筋肥大について、クラスターセットがストレートセットを一貫して上回るとは言いにくい結果になっています。

筋肥大を左右する要因は一つではありません。負荷、反復数、セット数、努力度、頻度など、複数の変数が関係しています。クラスターセットは、その中でも「休憩の入れ方」を変える方法にすぎません。

小分けにすることで反復の性質が保たれようとも、筋肉の肥大という現象そのものは単一のテクニックだけで決まるものではないのです。クラスターセットだけで筋肥大の結果が大きく変わるわけではありません。

では、この手法に意味がないかといえば、それは違います。問題は、これを特別な裏技として捉えるのではなく、疲労と刺激のバランスをデザインするための道具としてどう位置づけるかにあるのです。

6. 短い休憩でも、息は上がる

ここで、この方法にはもう一つの特徴が出てきます。短い休憩を挟みながら反復を続けると、意外なほど息が上がります。数回の反復。短い休憩。また反復。休んでいる時間が短いから、呼吸も心拍数も十分に落ちる前に次のブロックが始まります。

ここで、「心拍数が上がったからといって、それがそのまま持久力のトレーニングになる」と短絡的に結びつけてはなりません。

ウェイトトレーニングで短いレストを挟みながら反復を続けると、心拍数が高い状態を保ちやすくなります。しかし、それが有酸素能力の改善に直結するわけではありません。

ここで重要なのは、「筋トレなのに心拍数が上がる」ということではありません。短い休憩を挟むことで、局所的な筋疲労だけでなく、全身の負荷感も変わるということです。その独特の手応え自体が、トレーニングの選択肢を広げてくれます。

7. マスターズでは「翌日」まで考える

この考え方が役立つのは、マスターズトライアスリートのように複数のトレーニングを並行して行う場合です。

彼らの多くは、ウェイトトレーニングルームだけに時間を割いているわけではありません。朝にランニングのポイント練習をこなし、週末にはバイクに長時間乗り、水泳のドリルを挟む。生活の中に、複数のトレーニングが組み込まれています。

筋トレをした翌日に、予定していたランニングがある。そこで前日の筋トレの疲労が残っていたらどうするか。仕事もある。睡眠も毎日同じではない。だから、筋トレだけを見て「今日はどれだけ追い込めたか」を評価しても意味がありません。そのトレーニングが、明日以降の練習に何を残すのか。そこまで含めて考える必要があります。トレーニング1回を最適化するのではなく、1週間全体を壊さないことを考えるのです。

もし、ジムで毎回限界まで追い込むことを前提として、ストレートセットでオールアウトするようなトレーニングを繰り返したらどうなるでしょうか。

翌朝、起きた瞬間に筋肉が激しく張り、次の練習に支障が出る。その状態で別の予定をこなそうとしても、フォームが崩れ、故障につながる可能性もあります。

筋肉を鍛えるためにウェイトを頑張った結果、翌日のランニングやバイクにまで疲労が残ってしまう。それでは、メイン競技の練習にも影響してしまいます。

マスターズアスリートに必要なのは、単発のトレーニングで限界を迎えることだけではありません。1週間、1か月という長い単位で、他の練習と喧嘩させずに、どうやってトレーニングの総量を維持・継続するかです。

ここで、一つのセットを最後まで連続してやり切ること以外の選択肢を知っているかどうかが効いてきます。

重い負荷を扱うとき、重量を上げる以外の方法で負荷を調整できる。深い疲労を避けながら、必要な反復数や刺激を確保する。そのためのアプローチとして、「反復を小分けにする」という発想は、コンディショニングを保ちながら筋トレを続けるための一つの選択肢になります。

8. トレーニングは「増やす」だけではない

私たちは、筋力や筋量を維持したい、あるいは競技のために筋力を高めたいと思ったとき、「もっと」を求めてしまいます。

もっと重くする。もっと回数を増やす。もっとセット数を増やす。もっと追い込む。

その「増やす」ことばかりを考えていると、どこかで無理が生じます。年齢や仕事、日々のコンディションの変化の中で割けるエネルギーが限られてくればなおさらです。

筋トレのプログラムを考えるとき、重量、回数、セット数には目が向きます。でも、「いつ休むか」は意外と見落としたり、固定化されていたりする。10回を一気に行う。数回やって短く休む。

クラスターセットで覚えておきたいのは、「何回やって何秒休む」といった特定の方法ではありません。この方法から見えてくるのは、トレーニングの刺激や疲労の大きさは、重量や回数だけでは決まるわけではないということです。同じ重量でも、同じ回数でも、どこで休むかによって疲労の積み上がり方は変わります。

例えば、スクワットを一定の回数行う予定なら、数回ずつに分けて短い休憩を入れる。重要なのは、通常のセットより楽をすることではありません。必要な反復数を確保しながら、疲労によって動作が大きく崩れる前に区切ることです。

「もっと重くする」。「もっと回数を増やす」。「もっと追い込む」。

そうやって負荷を増やすことだけを考えるのではなく、ときには同じ仕事をどう分けるかを考えてみる。筋トレには、そんな設計もあります。

トレーニングを長く続けるほど、「何を増やすか」だけでなく、「どこで区切るか」という発想が役に立つ場面も出てくるはずです。

コメント