20歳の80%が、75歳では60%に?――加齢で低下する「筋肉の酸素を使う力」

「年齢とともにスタミナが落ちてきた」

持久系スポーツを長年続けているアスリートであれば、誰もが一度は直面する現実です。かつてと同じトレーニングを積んでいるはずなのに、タイムが伸び悩む。あるいは、かつてのような追い込みがきかなくなる。こうした変化の背景には、心肺機能や筋肉における「加齢に伴う生理的低下」が存在します。

しかし、その低下は一体「身体のどこ」で起きているのでしょうか? 心臓が血液を送り出す力の衰えなのか、それとも筋肉が酸素を取り込んでエネルギーに変える力の衰えなのか――。

本記事では、最新の運動生理学データや解析モデルに基づき、加齢によるVO₂max(最大酸素摂取量)低下のメカニズムと、トレーニングによって維持・改善できる「可塑性(かそせい)」について科学的に紐解いていきます。

1. VO₂maxを決める「Fick(フィック)の式」とは?

加齢とパフォーマンスの関係を論じる上で、すべての出発点となるのがFick(フィック)の式です。

VO₂max = Qmax × (a-vO₂ diff)max

  • Qmax(最大心拍出量): 心臓が1分間に送り出すことができる血液の最大量[中枢側の要因]
  • (a-vO₂ diff)max(最大動静脈酸素較差): 血液から末梢組織がどれだけ酸素を抽出できたかを表す指標[末梢側の要因]

つまり、人が1分間に利用できる酸素の最大量(VO₂max)は、「心臓がどれだけ血液を送り出せるか(ポンプ性能)」と、「末梢組織がどれだけ血液から酸素を取り出せるか(酸素抽出能力)」の掛け算によって決まります。

ここで重要なのは、Fickの式における「末梢側」は、単純に筋肉そのものだけを指しているわけではないという点です。毛細血管から筋組織への酸素移動、血流の分配、ミトコンドリアによる酸素利用など、複数の生理的過程が関係しています。

加齢に伴うVO₂maxの低下を考える際、従来は「最大心拍数(HRmax)の低下に伴うQmaxの減少」ばかりが注目されがちでした。しかし、近年の研究は、末梢側、すなわち骨格筋を含む組織での酸素抽出・利用能力の低下も、高齢者の運動能力低下に大きく関与している可能性を示しています。

2. 実測データが示す「中枢」と「末梢」の乖離(Fullerらの研究)

実際に年齢の異なる被験者を比較した実測研究を見てみましょう。Fullerら(2021)の研究では、若年群(43名)と高齢群(28名)の循環応答および酸素動態を詳細に比較測定しています。

測定項目若年群(43名)高齢群(28名)変化の傾向
Peak VO₂(mL/kg/min)34.418.8大幅低下
最大心拍出量(Qmax)(L/min)22.722.1有意差なし
最大心拍数(HRmax)(bpm)162129有意に低下
最大一回拍出量(SVmax)(mL)142173高齢群が高い
最大動静脈酸素較差(a-vO₂ diff)(mL/100 mL)15.89.01大幅低下

このデータから非常に興味深い事実が浮かび上がります。高齢群では最大心拍数(HRmax)が低下しているものの、一回拍出量(SVmax)が高く、結果として最大心拍出量(Qmax:心臓が送り出す血液量)自体には両群間で有意な差が見られませんでした(22.7 L/min vs 22.1 L/min)。

つまり、加齢によって最大心拍数が低下していても、この研究の被験者では一回拍出量が大きいことで、最大心拍出量がある程度維持されていたことになります。

それにもかかわらず、Peak VO₂は34.4から18.8 mL/kg/minへと大幅に低下しています。その差に大きく関与しているのが、動静脈酸素較差(a-vO₂ diff)の低下です。若年群では15.8 mL/100 mLだったのに対し、高齢群では9.01 mL/100 mLまで低下していました。

すなわち、「心臓のポンプ機能(中枢)」だけを見ていると説明しきれないVO₂maxの低下があり、その背景には、血液から末梢組織へ運ばれた酸素を実際に抽出・利用する能力の低下が存在すると考えられます。

もちろん、a-vO₂ diffは骨格筋だけを直接測定した数値ではありません。全身の動脈血と静脈血の酸素含有量の差から求められるため、複数の末梢組織における酸素利用を反映する指標です。それでも、この研究結果は、加齢によるVO₂max低下を「心臓だけの問題」として捉えることが適切ではないことを示す重要な実測データと言えるでしょう。

3. モデル解析が弾き出した「80%から60%への低下」(Capelliのモデル)

では、末梢側における酸素の引き抜き能力(酸素抽出)は、年齢とともにどれほど変化するのでしょうか。

Capelliら(2026)は、過去の広範な文献データをもとに数理モデルを構築し、加齢に伴う最大酸素抽出係数(O₂ext,max)の推移を解析しました。

※注意

ここで示される数値は、生体の筋肉を直接測定して得られた実測値ではなく、文献データをもとにしたモデル解析による推定値です。

このモデル解析によると、若年成人(20歳前後)における最大酸素抽出係数(O₂ext,max)は約0.80(80%)と推定されます。これは、最大運動時に全身へ供給された酸素のうち、末梢組織で抽出される割合を表す指標です。しかし、これが75〜80歳付近になると、約0.60(60%)へと低下するという結果が示されています。

つまり、モデル上では、最大運動時に末梢組織が血液から取り出せる酸素の割合が、若年成人の約80%から高齢になると約60%まで低下するということです。

ただし、これは「75歳になると筋肉が必ず60%しか酸素を使えなくなる」という意味ではありません。あくまでも、さまざまな研究データから構築されたモデルが示した年齢に伴う平均的な傾向の推定値です。個人差も大きく、特にトレーニング状態によって身体の生理機能は異なります。

血液から組織への酸素移動や、組織での酸素利用に関わる複数の要因が変化することで、最大運動時の酸素抽出に制約が生じる可能性が、このモデル解析から示唆されています。そして、ここからが重要です。

もし加齢によって末梢側の酸素抽出能力が低下するのであれば、「その変化はどのような生理的メカニズムによって起こるのか?」という疑問が生まれます。

4. なぜ末梢側の能力が低下するのか?

加齢によって骨格筋の酸素利用能力(末梢応答)が低下する背景には、単一の原因ではなく、複合的な生理的要因が存在します。

1. 毛細血管密度の低下(capillary rarefaction)

加齢に伴って骨格筋の毛細血管構造にも変化が生じる可能性があります。毛細血管は、血液によって運ばれてきた酸素を筋組織へ受け渡す場所です。

そのため、毛細血管構造の変化は単純に「血管の本数が減る」という問題だけではありません。筋線維と毛細血管の距離、血流分布、赤血球と組織との交換条件などを変化させ、筋への酸素供給・拡散に影響する可能性があります。

つまり、心臓が十分な血液を送り出していても、その血液から筋組織へ酸素を受け渡す環境が変化すれば、最終的な酸素抽出能力に影響する可能性があります。

2. ミトコンドリアの機能低下と量の減少

もう一つ重要なのが、筋細胞内部に存在するミトコンドリアです。ミトコンドリアは、酸素を利用してATP(アデノシン三リン酸)を産生する、いわば細胞のエネルギー代謝を担う主要な器官です。加齢に伴ってミトコンドリアの内容量や酸化系酵素活性などに変化が生じることが報告されています。

酸素が血液から筋細胞へ届いたとしても、それをエネルギー代謝に十分利用できなければ、全身としての酸素利用能力は低下します。したがって、毛細血管から筋細胞まで酸素を届ける過程だけでなく、筋細胞内で酸素を利用する能力そのものも重要になります。

3. 微小循環における血流調節の変化

さらに、筋肉の微小循環における血流調節も関係します。

運動中には、すべての筋線維へ同じように血液が流れるわけではありません。活動している筋線維に対して局所的に血流を増やし、必要な場所へ酸素を供給する精密な調節が行われています。

加齢によって、こうした微小血管レベルでの血流分配や血管拡張・収縮の調節機能に変化が生じる可能性があります。その結果、心臓から送り出された血液があっても、それを必要としている筋組織へ効率よく届ける能力に影響する可能性があります。

このように考えると、加齢による末梢側の酸素利用能力の低下は、毛細血管構造 → 血流分布・酸素拡散 → 筋細胞内のミトコンドリア → 酸素を利用したエネルギー産生という一連のシステムを、ひとつのネットワークとして考える必要があります。

これらの変化が組み合わさることで、Fickの式における(a-vO₂ diff)maxが小さくなり、VO₂maxの押し下げにつながる可能性があります。つまり、加齢によるVO₂max低下を理解するには、「心臓が弱くなった」という一言だけでは不十分なのです。

5. トレーニングによる可塑性――高齢になっても適応は起きるのか?

ここで最も重要な問いが浮上します。「こうした加齢による末梢の低下は、もはや避けられない固定された運命なのか?」

結論から言えば、単純に「固定された運命」と考えることはできません。年齢を重ねても、持久性トレーニングに対する身体の適応能力は残されています。もちろん、若年者と高齢者の身体が完全に同じ状態になるわけではありません。加齢による構造的・生理的変化そのものを消すこともできません。しかし、重要なのは、加齢による低下と、トレーニングによる適応は同時に存在できるということです。

Faricierら(2025)の研究から見るトレーニング適応

Faricierら(2025)は、若年者(7名、26±7歳)と高齢者(7名、68±7歳)を含む計14名の被験者を対象に、12週間の持久性トレーニング介入を行いました。トレーニングは週3回、45分間、VO₂maxの約70%に相当する強度で行われました。

その結果、14人全体として、12週間のトレーニングによってVO₂maxが平均20%増加し、最大心拍出量が15%、最大一回拍出量が14%、クエン酸合成酵素(CS)活性が144%、毛細血管密度が22%、a-vO₂ diffが4%増加しました。

ここで重要なのは、これらの数値が「高齢者だけ」の結果ではなく、若年者と高齢者を合わせた14人全体の結果だということです。したがって、「68歳の人が12週間でVO₂maxを20%上げた」と単純化することはできません。

それでも、この研究は、高齢者を含む集団において、持久性トレーニングによって中枢・末梢の複数の生理学的適応が生じることを示しています。特に興味深いのは、適応が心臓だけに限定されていないことです。最大心拍出量や一回拍出量といった中枢側の変化だけでなく、クエン酸合成酵素活性や毛細血管密度といった骨格筋側の変化も確認されています。つまり、トレーニングによって身体は「酸素を運ぶシステム」と「酸素を利用するシステム」の両方を変化させることができます。

Mølmenら(2025)の大規模レビューが示す結論

さらに、Mølmenら(2025)による大規模なシステマティックレビューおよびメタ回帰分析では、ミトコンドリアについて353研究・5,973名、毛細血管について131研究を対象として、持久性トレーニングによる適応が検討されています。

このレビュー解析によると、トレーニングによるミトコンドリア内容量の増加は、伝統的なエンデュランストレーニング(ET)、高強度インターバルトレーニング(HIIT)、スプリントインターバルトレーニング(SIT)のいずれにおいても概ね同様の増加が見られました。ミトコンドリア内容量の増加は、ETで約23%、HIITで約27%、SITで約27%であり、これらの間に統計的な有意差は認められませんでした。

さらに、ミトコンドリアのトレーニング適応について、年齢、性別、閉経、疾患、筋量などによる明らかな阻害効果は認められませんでした。著者らは、こうした結果から、ミトコンドリアのトレーニング適応能力は生涯を通じて維持されると論じています。

もちろん、「若年者と全く同じスピードや効率で適応する」とまで過剰に言い切ることはできません。また、このレビューはトレーニングによる適応が年齢によって完全に変わらないことを意味するものでもありません。

しかし少なくとも、「高齢になるとミトコンドリアのトレーニング適応が起きなくなる」という単純な悲観論は、現在の知見とは一致しません。実際、年齢を重ねた人を含む研究でも、持久性トレーニングによって循環機能や骨格筋の酸化能力、毛細血管構造などに適応が生じることが報告されています。

ここには、マスターズアスリートにとって非常に重要な意味があります。加齢によって身体の一部が低下することと、トレーニングによって身体が適応することは、矛盾しません。「衰える身体」と「適応する身体」は同時に存在できる。 これが、加齢とトレーニングを考える上で重要なポイントになります。

6. マスターズアスリートが取るべきトレーニングアプローチ

では、加齢に伴う末梢側の低下を抑え、残された可塑性を引き出すためには、どのようなアプローチが考えられるのでしょうか。

ここで重要なのは、「この強度をやれば、この適応だけが起こる」という単純な考え方ではありません。実際の身体では、持久性トレーニングによって中枢循環系、毛細血管、ミトコンドリア、酸素利用能力などが重なり合って適応します。そのため、単一の強度だけに固執するのではなく、複数の生理的適応を狙ったトレーニングを組み合わせることが重要になります。

低〜中強度・長時間のベーストレーニング(Zone 2など)

長時間にわたる筋活動と血流刺激を通じて、毛細血管構造や酸化能力など、複数の末梢適応に関与します。持続的な有酸素運動を継続することによって、骨格筋が長時間にわたって酸素を利用する能力を支えるさまざまな適応が生じます。

これは単に「脂肪を燃やすためのトレーニング」という意味ではありません。長時間の筋活動そのものが、筋組織の血流、ミトコンドリア、酸化代謝などに継続的な刺激を与えることになります。

高強度・インターバルトレーニング(HIIT / VO₂maxインターバル)

高い酸素需要と代謝ストレスを生じさせ、ミトコンドリアの酸化能力や循環応答など、複数の生理学的適応を刺激します。高強度運動では、低強度運動とは異なるレベルの循環応答と代謝ストレスが生じるため、持久性トレーニング全体の中で重要な役割を持ちます。

特にVO₂max付近まで酸素需要を高めるトレーニングは、最大心拍出量や一回拍出量などの中枢側の能力を刺激するだけでなく、骨格筋の酸化能力を含む複数の適応に関係します。つまり、

低〜中強度の持続的な持久性刺激 → 長時間の筋活動と血流刺激 → 毛細血管・酸化能力などへの複合的適応

高強度インターバル刺激 → 高い酸素需要と代謝ストレス → ミトコンドリア・循環系などへの複合的適応

というように、それぞれ異なる刺激を組み合わせて考える方が、現在のエビデンスには適しています。

ただし、ここで忘れてはいけないのが「回復」です。年齢を重ねたアスリートでは、トレーニング量や高強度刺激を増やす際に、疲労や回復状態を含めて個別に調整する必要があります。単純に「量を増やす」「強度を上げる」という力押しを続ければ、トレーニング刺激そのものよりも疲労や傷害リスクが問題になる可能性があります。

一方で、適切な強度設定と十分なリカバリーを組み合わせることで、加齢後も骨格筋の酸化能力や微小循環などにトレーニング適応を引き起こすことは可能です。ここで重要なのは、加齢による低下をゼロにすることではありません。 加齢によって低下する部分があることを前提とした上で、それでも残されている適応能力を継続的に刺激することです。これはマスターズアスリートにとって、非常に現実的な戦略と言えるでしょう。

7. まとめ――残酷な現実を正しく知り、正しく抗う

加齢に伴うVO₂maxの低下は紛れもない生理的事実です。しかし、その低下を「心臓が衰えるから」という一言だけで説明することはできません。

Fickの式から考えると、VO₂maxは、心臓からどれだけ血液を送り出せるかと、その血液から末梢組織がどれだけ酸素を抽出できるかという2つの要素によって決まります。そして、加齢によるVO₂max低下を考える上では、後者である末梢側の酸素抽出・利用能力の低下も重要な要素になります。

今回紹介した研究から見えてくるポイントを整理すると、次のようになります。

  • Fickの式における中枢(Qmax)だけでなく、末梢(a-vO₂ diff)の低下が加齢によるVO₂max低下に重要な意味を持つ。
  • Fullerらの実測研究では、高齢群で最大心拍出量に有意差がない一方、a-vO₂ diffが大きく低下していた。
  • Capelliらのモデル解析では、最大酸素抽出係数(O₂ext,max)が20歳前後の約80%から、75〜80歳では約60%まで低下するという推定が示されている。
  • ただし、この「80%→60%」は直接測定された筋肉の値ではなく、文献データをもとにしたモデルによる推定値である。
  • 毛細血管構造、微小循環、ミトコンドリアなど、末梢側の複数の生理的要因が酸素利用能力に関係している。
  • 一方で、トレーニングによる生体の適応能力は高齢になっても失われるわけではなく、持久性トレーニングによって中枢・末梢の複数の適応が生じることが報告されている。
  • Mølmenらの大規模レビューでは、ミトコンドリアのトレーニング適応に対する年齢による明らかな阻害効果は認められず、著者らはその適応能力が生涯を通じて維持されると論じている。

つまり、ここには一見すると矛盾する2つの事実があります。年齢を重ねれば、身体の生理機能は確実に変化する。しかし同時に、年齢を重ねても、身体はトレーニングに適応する。 この2つは両立します。

加齢による変化を無視して「まだ若い頃と同じように伸びる」と考える必要もありません。逆に、「年齢だからもう適応しない」と諦める必要もありません。重要なのは、その間にある現実を正しく理解することです。

レーシングパフォーマンスは、VO₂maxだけで決まるわけではありません。末梢側の酸素利用能力や運動経済性(ランニングエコノミー/バイク効率)、乳酸閾値付近での持続能力など、トレーニングによって伸ばせる要素は数多く存在します。だからこそ、加齢によるVO₂maxの低下という「変えられない部分」がある一方で、そこから先にはまだトレーニングによって変えられる領域が残されています。

加齢による変化を客観的に理解した上で、残された可塑性に適切な刺激を与え続けること。それが、長く競技を続け、自分自身の可能性を追求し続けるための重要な考え方になります。

参考文献参考文献

Mølmen KS, Almquist NW, Skattebo Ø. (2025). Effects of Exercise Training on Mitochondrial and Capillary Growth in Human Skeletal Muscle: A Systematic Review and Meta-Regression. PMID: 39390310

Fuller KN, et al. (2021). The effect of age on mechanisms of exercise tolerance: Reduced arteriovenous oxygen difference causes lower oxygen consumption in older people. PMID: 33838218

Capelli C, Ferretti G, di Prampero PE, Tam E. (2026). Cardiovascular and peripheral factors affecting the decay of maximal oxygen uptake across the spectrum of age in humans. PMID: 41160092

Faricier R, Paterson DH, Murias JM. (2025). Physiological Determinants of V̇O₂max Increase with Endurance Training in a Group Including Older and Young Adults. PMID: 40173327

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