ベーストレーニングの強度はどう決める? LT1・FatMax・心拍数の使い分け

ベーストレーニング(基礎構築期)を進める中で、「どこまで強度を上げていいのか」という疑問は常に生じます。心拍数なら何bpmまでなのか、パワーならFTPの何%なのか、ランニングならどのくらいのペースなのか。

その基準として、持久系競技ではLT1(第一乳酸閾値)がよく使われます。たしかに、LT1はベーストレーニングの強度を考えるうえで重要な指標です。

しかし、身体のエネルギー供給は乳酸の動態だけで決まるわけではありません。同じ「楽に続けられる運動強度」であっても、脂質と糖質をどの程度使っているのかによって、身体の中で起きている適応プロセスは異なります。

そこで重要になってくるのが、FatMax(脂肪酸化速度が最大になる運動強度)という視点です。LT1とFatMax、そして実際の心拍数。この3つが常に同じ強度で一致するとは限りません。

では、こうした指標間にズレがあるとき、私たちは何を基準にベーストレーニングの強度を決めればよいのでしょうか。

本記事では、ベーストレーニングの強度を単純な「○○bpm」という数字としてではなく、「身体のどの能力を伸ばしたいのか」という目的から考えていきます。

1. ベーストレーニングの強度は「1つの数字」では決まらない

ベーストレーニングというと、「Zone 2」「LT1以下」「最大心拍数の○%」など、1つの数字でシンプルに説明されることが少なくありません。

しかし、実際の体内では複数の生理学的な変化が同時に起きています。運動強度が上がれば、エネルギー供給に占める糖質の割合は徐々に増えていきます。一方で、脂質も重要なエネルギー源として利用され続けます。

さらに、運動強度の上昇に伴って血中乳酸濃度に変化が現れ、呼吸や心拍数も連動して変動します。

つまり、「この心拍数ならベーストレーニング」と単純に線を引いたとしても、その数字が何を意味しているのかを理解しなければ、本当の意味で強度をコントロールできているとは言えません。

そこでまず確認したいのが、LT1とFatMaxという2つの軸です。

2. LT1は「運動強度に伴う代謝変化」を見る指標

LT1は、運動強度を徐々に高めていったときに、血中乳酸濃度が安静時のレベルから明確に上昇し始めるポイントとして扱われます。ただし、乳酸は単なる「疲労物質」ではありません。乳酸は運動中に常に産生と利用が繰り返されており、血中乳酸濃度はそのバランスによって決まります。

そのためLT1は、「乳酸が出始める地点」というよりも、「運動強度の上昇に伴って、乳酸の代謝状態に明確な変化が現れる地点」と捉えた方がより正確です。

持久系競技のベーストレーニングでは、一般にLT1以下の低〜中強度が重要なトレーニング領域として扱われます。過度な代謝ストレスを避けながら、長時間運動を続ける能力を養う上で十分な運動量を確保しやすいからです。

ただし、ここで一つ注意しなければならないのは、LT1が分かったからといって、脂質代謝の状態まで完全に把握できるわけではないという点です。

そこで登場するのがFatMaxとなります。

3. FatMaxは「脂肪酸化速度が最大になる強度」を見る

FatMaxとは、運動中の脂肪酸化速度が最大になる運動強度を指します。

運動強度が低すぎれば、脂肪は使われていても総エネルギー消費量が小さいため、脂肪酸化速度そのものはそれほど高くありません。逆に運動強度が高くなりすぎると、エネルギー供給に占める糖質の割合が優位になっていきます。

その中間地点に、脂肪酸化速度が最大になるポイントが存在します。それがFatMaxです。

ここで重要なのは、FatMaxを「脂肪を燃やすための理想的な心拍数」と単純に決めつけないことです。FatMaxはあくまで、特定のテスト条件下において脂肪酸化速度が最大になった運動強度を示す指標に過ぎません。食事内容、運動時間、トレーニングの疲労度、測定方法などによっても結果は変動します。

したがって、FatMaxだけを見て「この心拍数でトレーニングすれば脂肪が最も鍛えられる」と短絡的に判断するのは適切ではありません。それでも、LT1とは異なる角度からエネルギー供給の特徴を教えてくれる点において、FatMaxを確認する大きな意味があります。

4. LT1とFatMaxがズレることの意味

例えば、ある選手のテスト結果において、LT1よりもかなり低い強度でFatMaxが確認されたとします。この場合、「どちらの数字が正しいのか?」と優劣を競うのではなく、それぞれの指標が何を測っているのかを確認する必要があります。

130 bpmで楽に運動できるからといって、常にその強度でベーストレーニングを行う必要があるとは限りません。もし長時間の運動における脂質利用に重点を置くのであれば、FatMax付近を含む低強度の運動を十分に取り入れることも、一つの選択肢になります。

一方で、FatMaxの値が低いからといって、それだけで「自分の脂肪酸化能力が低い」と断定することも早計です。指標はあくまで現状の特徴を映し出す鏡に過ぎません。

5. 乳酸が低くても心拍数が高い場合の解釈

もう一つ、現場でよく見られるケースがあります。それは、運動中の血中乳酸濃度は比較的低いにもかかわらず、心拍数が想定よりも高くなってしまうケースです。

この場合も、「乳酸が低いのだから、もっと強度を上げていこう」と単純に判断することは早計です。心拍数は、筋肉の代謝状態だけでなく、循環系の応答、体温上昇、脱水、疲労の蓄積、睡眠の質、さらには環境温度など、数多くの要因に影響を受けます。

したがって、「心拍数が高い」という事実だけから「心臓がボトルネックだ」と即断することはできません。

しかし、乳酸応答と循環系の応答(心拍数)に大きな乖離が見られるのであれば、他の要因も考慮したうえで、循環系の応答も含めて慎重に解釈する必要があります。少なくとも、「乳酸が低い=いくら心拍数が高くても問題ない」とは言い切れません。

心拍数、血中乳酸値、主観的運動強度、そしてパワーやペースを組み合わせて見ることで、自分の身体がどこに負荷を受けているのかを多面的に捉えることができます。

6. 「一番低い数字」ではなく「何が制限因子になっているか」

ここまで読み進めると、「では、LT1とFatMaxのうち、低い方に合わせれば間違いないのか?」という疑問が湧くかもしれません。しかし、ここでも機械的な当てはめは避けた方が賢明です。

トレーニング強度を決定する際に重要なのは、一番低い数値を無条件に採用することではなく、「現在の目的に対して、何が制限因子(ボトルネック)になっているのか」を考えることです。

例えば、長時間の運動における脂質利用を重視したい場合には、低強度での十分なボリュームを確保することが一つの選択肢になります。

一方で、乳酸処理能力や持続的な有酸素能力そのものが課題であれば、LT1付近を含めたトレーニングの組み立てが重要になります。

さらに、ランニングエコノミー、ペダリング効率、筋力、筋持久力など、代謝以外の要素が制限因子になっている可能性も十分にあります。

つまり、同じ「Zone 2」という言葉を使っていても、「何を目的としてその強度を選んでいるのか」によって、トレーニングが持つ意味は根本から変わってくるのです。

7. 「楽だから」ではなく「何を伸ばすのか」で強度を決める

ベーストレーニングの期間は、どうしても「もっと速く走りたい」「もう少し高いパワーを出したい」という欲求が生まれやすいものです。特に、LT1より下ならまだ余裕があると分かっていると、少しずつ強度を上げていきたくなるのがアスリートの心理です。

しかし、ベーストレーニングの本質は「できるだけ低い強度で頑張ること」にあるわけではありません。長時間にわたって運動を継続するための身体の仕組みを、さまざまな生理学的側面から整えていくことに本当の価値があります。

そのためには、以下の情報を多角的に組み合わせる視点が不可欠です。

  • LT1はどこにあるのか
  • FatMaxはどの程度の強度なのか
  • そのとき心拍수는どう反応しているのか
  • パワーやペースはどう変化しているのか
  • 主観的なきつさ(RPE)はどの程度か
  • 長時間運動したときに身体がどのような反応を示すか

ベーストレーニングの心拍数は、「どこまで耐えられるかという上限」を探すための数字ではありません。

「いまの自分に何が必要なのかを見極め、その目的に合った強度を選ぶための管理指標」なのです。

8. まとめ ── 心拍数は「答え」ではなく「身体を読むための道具」

ベーストレーニングの強度設定において、LT1は非常に有用な羅針盤です。しかし、LT1という単一の指標だけで身体のすべてが分かるわけではありません。

FatMaxを確認することで、運動強度と脂肪酸化の関係についての別の側面が見えてきます。さらに心拍数や他のデータを組み合わせることで、実際のトレーニング中に身体がどう適応しようとしているのかを継続的に追うことができます。

重要なのは、これらの数値を「絶対的な正解を決めるため」に使うことではありません。数値の間に生じるズレから、自分の身体の現在地について何を読み解くべきか──そこに思いを巡らせることです。

  • LT1とFatMaxが近ければ、それは一つの特徴です。
  • 大きく離れていれば、それもまた改善のヒントとなる貴重な情報です。
  • 心拍数だけが高ければ、循環器系だけでなく、疲労の蓄積や環境要因を含めて原因を多角的に考えます。

そして、得られた情報をもとに、「いま、自分は何を伸ばすべきなのか?」を問い続けること。それが、ベーストレーニングの強度を決めるうえで最も大切にしたい視点です。

ベーストレーニングは、単に「楽な運動をする期間」でも、「できるだけ低い心拍数で耐える期間」でもありません。長い距離を最後まで力強く動き続けるために、自分の身体のどこを補強・発達させるべきかを見極め、その目的に合わせて強度を柔軟に調整していく期間です。

だからこそ、心拍数という一つの数字だけに縛られるのではなく、乳酸、脂質代謝、循環応答、そしてトレーニングの目的を重ね合わせながら、自分の身体と対話するように強度をデザインしていきましょう。

参考文献

  1. Goodwin, M. L., et al. (2007). Blood lactate measurements and analysis during exercise: a guide for clinicians. Journal of Diabetes Science and Technology, 1(4), 558–569. PMID: 19885119
  2. Amaro-Gahete, F. J., et al. (2019). Assessment of maximal fat oxidation during exercise: A systematic review. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports, 29(7), 910–921. PMID: 30929281
  3. Coyle, E. F., & González-Alonso, J. (2001). Cardiovascular drift during prolonged exercise: new perspectives. Exercise and Sport Sciences Reviews, 29(2), 88–92. PMID: 11337829

コメント